生きているスタニスラフスキー
朝ドラ(連続テレビ小説)「なつぞら」が幕を閉じました(2019年4月〜9月)。「あさが来た」(2015年度下半期)あたりから朝ドラを欠かさず見ていますが、私にとって、今回の「なつぞら」ほど、登場人物がくっきりとして記憶に残るものはありません。きっと、スタッフ、俳優陣の熱気、脚本の素晴らしさによるものでしょう。セリフには一度も、20世紀最大の演劇人であったスタニスラフスキーの名前はでてきませんでしたが、彼の名著『俳優修行』の表紙が映し出されていました。彼の思想の端々がセリフに現れていました。「役を生きよ」というこの演劇人の呼びかけがスタッフ、俳優陣を鼓舞していたのではないでしょうか。だからこそ、1人ひとりの役柄がくっきりした。その意味では、この演劇人こそ影の主役であったかもしれません。
どの役柄、どの俳優も心に残っているので、とても書ききれません。敢えてお一人だけあげるとすれば、主人公なつの妹役、千遥を演じた清原果耶さんが気に入りました。まだ17歳、それでいて中学生から30代半ばのお母さん(兼、女将さん)、そしてシングルマザーを演じてしまう。数えるほどの回数しか出演していないのに、ずっしりとした存在感があります。私が彼女の力量のただならぬものを感じたのは、セリフもなくただ彼女の相貌をカメラがいつまでも写していることから。演出家とカメラマンはきっといつまでも撮っていたかったに違いない。それは、なつとやっとのことで再会を果たしたシーン。たんに嬉しいわけではない、会いたくとも会ってはいけないと思った極めて複雑な心境を見事に表現していました。繰り返しますが、一言のことばもなく。 〔神谷栄司〕

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